栄養コンシェルジュ新着情報:わさび成分「6-MSITC(ヘキサラファン®)」が歯の再生医療へ?象牙質再生の最新研究から学ぶ食品と身体の可能性
2026年8月7日
「わさび」と聞いて、何を思い浮かべますか?
寿司や刺身に添えられた、ツーンとした辛味。
日本の食文化を代表する、とても身近な食品の一つです。
ところが今、その日本わさびに含まれる成分が、新たな象牙質再生療法につながる可能性を示しています。
東京歯科大学などの研究グループは2026年、日本わさび由来成分「6-methylsulfinylhexyl isothiocyanate(6-MSITC)」について、象牙質を形成する象牙芽細胞への作用を詳細に解析しました。
その結果、6-MSITCが象牙芽細胞の石灰化を促進することに加え、ラットでは反応性象牙質の形成、コラーゲン産生、カルシウム沈着が有意に増加することが確認されました。
研究者らは、6-MSITCを新しい象牙質再生療法につながる有望かつ強力な薬理学的候補物質と位置づけ、臨床応用を見据えた研究を進めています。
身近な「食」から、細胞、人体、そして医療の未来へ。
今回の研究を入り口に、食品と身体を科学する面白さを一緒に見ていきましょう。
CHECK|あなたは「わさび」のことをどこまで知っていますか?
まずは簡単なチェックです。
普段何気なく食べているわさびについて、次のことを知っていたでしょうか。
□ 日本わさびには、さまざまなイソチオシアネート類が含まれている
□ その一つに「6-MSITC」という成分がある
□ 歯の象牙質は、象牙芽細胞という細胞によって形成される
□ 6-MSITCが象牙芽細胞の石灰化を促す研究結果が報告されている
□ ラットでは反応性象牙質の形成促進まで確認されている
一つでも「知らなかった」があった方。
ここからが、食品と身体を学ぶ面白さです。
私たちは毎日、さまざまな食品を食べています。
しかし、その食品にどのような成分が含まれ、身体のどこに作用し、細胞では何が起こっているのかまで考える機会は、それほど多くありません。
今回の研究では、「わさび」という身近な食品の中に存在する一つの成分から、象牙質再生療法へとつながる可能性が見えてきました。
「冷たいものを食べると歯がキーン」は身近な悩み
アイスクリームを食べた瞬間。
冷たい飲み物を口にした瞬間。
歯に「キーン」と鋭い痛みが走った経験がある方もいるのではないでしょうか。
象牙質知覚過敏は、象牙質が露出することで、冷たいものなどの刺激に対して短く鋭い痛みが生じる状態です。
歯の外側には非常に硬いエナメル質があり、その内側には象牙質、さらに内側には血管や神経などを含む歯髄があります。
象牙質には「象牙細管」と呼ばれる微細な管が多数存在しています。
象牙質が露出すると、冷刺激などによって象牙細管内の液体が移動し、その変化が歯髄側の感覚系へ伝わることで痛みが生じるという「動水力学説」が広く支持されています。
知覚過敏へのアプローチでは、露出した象牙細管を封鎖したり、神経への刺激を抑えたりする方法などが用いられています。
そこで今回、研究者たちが着目したのが、「象牙質そのものの形成を促すことはできないか」というアプローチです。
その研究対象が、日本わさび由来「6-MSITC」
今回研究されたのが、日本わさびに含まれる6-MSITCです。
正式名称は、6-methylsulfinylhexyl isothiocyanateといいます。
イソチオシアネート類に分類される化合物で、今回の研究では6-MSITCと8種類の誘導体について、象牙芽細胞の石灰化への作用が調べられました。
研究成果は2026年、国際学術誌『The Journal of Physiology』に掲載されています。
研究グループは、6-MSITCを象牙芽細胞へ作用させることで、石灰化効率が有意に上昇することを確認しました。
ここで重要になるのが「象牙芽細胞」です。
象牙芽細胞は、象牙質をつくるために重要な細胞。
つまり研究者たちは、外側から単に象牙質を覆うのではなく、もともと身体に備わっている象牙質形成の仕組みを利用する可能性を研究しているのです。
6-MSITCは象牙芽細胞をどう動かしたのか
ここから少しだけ、身体の中へ入ってみましょう。
今回の研究が興味深いのは、「6-MSITCを使ったら象牙質形成が促された」という現象だけではなく、なぜその現象が起こるのかという細胞レベルの仕組みまで解析されていることです。
歯や骨のような硬い組織が形成されるためには、カルシウムなどのミネラルが重要です。
しかし、単純に「カルシウムがあれば歯ができる」というわけではありません。
細胞内外では、さまざまなイオンが精密に移動しています。
今回の研究では6-MSITCによって、象牙芽細胞の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase:CA)に関連する反応が活性化し、SLC4As → NHE → NCX → PMCAという複数の輸送系が連動することが示されました。
これによってHCO₃⁻、H⁺、Na⁺、Ca²⁺などのイオン輸送が変化し、象牙質の石灰化につながる環境が形成されると考えられています。
食品に含まれる一つの成分から、細胞膜を介したイオン輸送へ。
そして、その先に組織形成がある。
人体は、私たちが想像する以上に精巧な仕組みで成り立っています。
細胞だけではない。ラットでは象牙質形成そのものが増加
さらに研究グループは、生体内でも6-MSITCが象牙質形成を促すのかを検討しています。
ラットの下顎第一臼歯に窩洞を形成し、6-MSITCを含むMedGelを適用して2週間観察しました。
すると、6-MSITC群では対照群と比較して、反応性象牙質形成、コラーゲン産生、カルシウム沈着が有意に増加しました。
H-E染色によって評価された反応性象牙質の幅は、
対照群:91.5 ± 39.373 µm
6-MSITC群:259.75 ± 89.593 µm
となり、有意な増加が確認されています。
さらにカルセイン標識による評価では、
対照群:18.9 ± 9.185 µm
6-MSITC群:340.0 ± 44.099 µm
となり、こちらでも6-MSITC群で大きな増加が確認されました。
細胞レベルで確認された石灰化促進作用が、動物の歯でも「反応性象牙質形成」という形で確認された。
研究者らが6-MSITCを象牙質再生療法の候補として期待する、大きな理由の一つです。
「わさび」から「再生医療」へ研究がつながっていく
今回の研究を知ると、普段食べている「わさび」の見え方が少し変わってくるかもしれません。
日本わさび。
その中に含まれる6-MSITC。
6-MSITCから象牙芽細胞へ。
象牙芽細胞からイオン輸送へ。
そして、象牙質形成へ。
一つの食品から始まった研究が、細胞生理学を通して、再生医療へとつながっていく。
科学の面白さを感じる流れです。
論文では、今回の研究成果を踏まえ、6-MSITCを新しい象牙質再生療法に向けた有望な薬理学的候補として位置づけています。
さらに研究グループは、6-MSITCを象牙質再生療法へ応用するための臨床研究も開始しています。
基礎研究から動物研究へ。
そして、臨床研究へ。
日本わさび由来成分から、将来、新しい歯科治療の選択肢が生まれるかもしれません。
今後の研究成果が期待されます。
「わさびを食べること」と「6-MSITCを治療へ応用すること」
今回の研究を正しく楽しむために、一つだけ区別しておきたいことがあります。
今回研究されているのは、食品としてわさびを食べることで知覚過敏を治療する方法ではありません。
日本わさびに含まれる6-MSITCという特定成分を取り出し、その薬理作用を象牙質再生療法へ応用する研究です。
食品に含まれる成分が新しい医薬品や治療法のヒントになることと、その食品を食べれば同じ治療効果が得られることは別です。
この違いを理解したうえで見ると、今回の研究はむしろ、さらに興味深くなります。
普段食べている食品の中に、まだ私たちが知らない可能性が眠っている。
それを研究者が一つひとつ発見し、作用する仕組みを解明し、医療へつなげようとしているからです。
食品は「栄養素の集合体」だけではない
栄養を学び始めると、
糖質。
脂質。
たんぱく質。
ビタミン。
ミネラル。
食物繊維。
といった栄養素に目が向きます。
もちろん、これらは身体を理解するうえで非常に重要です。
しかし、食品の世界はそれだけではありません。
植物にはイソチオシアネート類、ポリフェノール、カロテノイドをはじめ、さまざまな化学成分が存在しています。
そして、その成分と私たちの身体との関係について、世界中で研究が続けられています。
今回の6-MSITCも、その一つです。
「わさびには何が入っているのか」という問いから、
「その成分はどの細胞へ作用するのか」
「細胞では何が起こるのか」
「組織では何が変化するのか」
「人の健康や医療へ応用できるのか」
へと問いが広がっていきます。
食品について学ぶことは、身体について学ぶことでもあります。
栄養学を学ぶと、毎日の食事の見え方が変わる
栄養学というと、
「何を食べれば痩せるのか」
「どの食品が身体に良いのか」
「何kcal食べればよいのか」
というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、本来の栄養学はもっと広く、そして深い学問です。
食べたものは、消化管でどうなるのか。
どこから吸収されるのか。
血液によってどこへ運ばれるのか。
細胞へ入った後、どのように代謝されるのか。
ホルモンはどう反応するのか。
身体の状態が変われば、同じ食品でも利用のされ方は変わるのか。
こうした「なぜ?」がつながってくると、栄養学は暗記科目ではなくなります。
今回の研究も、「わさびには6-MSITCが入っている」だけで終われば一つの知識です。
しかし、「6-MSITCが象牙芽細胞へ作用し、イオン輸送を変化させ、象牙質形成につながる可能性がある」まで理解すると、食品と身体のつながりが見えてきます。
これこそ、栄養学を学ぶ面白さの一つです。
AI時代だから、栄養学はもっと面白くなる
現在は、AIに質問すれば栄養素の働きや研究論文についても、短時間で多くの情報を得られるようになりました。
これは、栄養を学ぶ人にとって大きな可能性です。
これまで専門家しかアクセスしにくかった研究情報も、以前より身近になりました。
だからこそ、これからは「情報を持っていること」だけでは差がつきにくくなります。
大切になるのは、得られた情報と、身体の仕組みをつなげて考えられること。
「なぜ?」
「どのような仕組みで?」
「どこまで分かっている?」
「目の前の人には、どう活用できる?」
と考えられることです。
AIによって栄養学の価値がなくなるのではありません。
むしろ、情報へ簡単にアクセスできる時代だからこそ、人体と栄養を体系的に理解している人の価値は、さらに高まっていくと私たちは考えています。
結論|身近な「わさび」から、象牙質再生療法の未来へ
東京歯科大学などの研究グループは2026年、日本わさび由来成分6-MSITCについて、象牙芽細胞の石灰化を促進する仕組みを報告しました。
ラットでは、6-MSITCによって反応性象牙質形成、コラーゲン産生、カルシウム沈着が有意に増加しています。
その背景には、炭酸脱水酵素(CA)とSLC4As、NHE、NCX、PMCAなどが連動するイオン輸送機構が関係すると考えられています。
研究者らは6-MSITCを、新しい象牙質再生療法につながる有望な薬理学的候補物質として位置づけ、臨床応用を見据えた研究を進めています。
日本の食文化に根付いた「わさび」から、歯の再生医療へ。
食品由来成分と人体が持つ可能性を感じさせる研究として、今後の発展が期待されます。
「食べ物って面白い」から始める栄養学
今回の記事を読んで、
「わさびにそんな成分があったの?」
「象牙芽細胞って初めて知った」
「食品の研究って、医療にまでつながるんだ」
一つでもそう感じたなら、もう栄養学の入り口に立っています。
日本栄養コンシェルジュ協会が大切にしているのは、食品名や栄養素をただ暗記することではありません。
食べ物と身体のつながりを理解すること。
栄養コンシェルジュ®では、消化吸収、細胞、代謝、ホルモン、臓器、身体組成などを学びながら、「食べたものが身体の中でどうなるのか」を体系的に理解していきます。
そして、その知識を、
自分の健康に。
家族の健康に。
スポーツ指導に。
パーソナルトレーニングに。
医療や介護に。
美容や健康支援に。
目の前の人のために使える力へ変えていきます。
情報を検索すれば、答えらしきものがすぐに見つかる時代です。
だからこそ、「知っている」だけではなく、「なぜそうなるのか」を理解していること。
その力が、これからの栄養指導には必要です。
食品を見る目が変わる。
身体を見る目が変わる。
そして、人への伝え方が変わる。
今回の「わさび」のように、身近な食品の向こう側には、まだ知らない科学の世界が広がっています。
栄養学をもっと深く、もっと面白く。
栄養を「知識」で終わらせず、一生使える力にしたい方へ。
栄養コンシェルジュ®で、食品と身体のつながりを一緒に学んでみませんか。
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参考文献
Y Furusawa, M Kimura, I Okunishi, et al. J Physiol. 2026 Apr;604(7):2816-2844. 6-Methylsulfinylhexyl isothiocyanate activates carbonic anhydrase-dependent HCO₃⁻/H⁺/Na⁺/Ca²⁺ transport via SLC4As–NHE–NCX–PMCA axis in odontoblasts.
X X Liu, H C Tenenbaum, R S Wilder, et al. BMC Oral Health. 2020 Aug 6;20(1):220. Pathogenesis, diagnosis and management of dentin hypersensitivity: an evidence-based overview for dental practitioners.
N X West, A Lussi, J Seong, E Hellwig. Clin Oral Investig. 2013 Mar;17 Suppl 1. Dentin hypersensitivity: pain mechanisms and aetiology of exposed cervical dentin.
※本記事は2026年8月7日時点で確認できる査読済み研究を中心に作成しています。6-MSITCについては象牙質再生療法への応用が研究されていますが、食品としてわさびを摂取することによる知覚過敏治療を示した研究ではありません。
一般社団法人 日本栄養コンシェルジュ協会
「栄養で人と未来を輝かせる」を理念に、科学的・医学的根拠に基づいた栄養知識の普及と、現場で活用できる実践的スキルを持つ人材の育成に取り組むヘルスケア教育機関です。 また、医療・運動・心理・生活科学など多分野の知見を統合し、本質的な健康支援を実現するための「栄養哲学」の研究にも取り組んでいます。 認定資格「栄養コンシェルジュ®」は、医療従事者やアスリートなど多分野の専門家が監修した信頼性の高い栄養学資格で、基礎から応用まで体系的に学べるカリキュラムを提供しています。 さらに資格取得後も、最新の研究情報の共有や学習機会の提供を通じて継続的な学びを支援し、資格取得者の生涯学習と専門性向上をサポートしています。
FAQ|わさび・6-MSITC・象牙質再生の最新研究
Q1.わさび成分「6-MSITC」は、なぜ歯の再生研究で注目されているのですか?
6-MSITCは、象牙質をつくる象牙芽細胞の石灰化を促し、ラットでは反応性象牙質形成を増加させたため注目されています。2026年の研究では作用機序まで解析され、新たな象牙質再生療法につながる薬理学的候補物質として期待されています。
Q2.6-MSITC(ヘキサラファン®)とは、どのような成分ですか?
6-MSITCは、日本わさびに含まれるイソチオシアネート類の一つです。正式名称は6-methylsulfinylhexyl isothiocyanateで、今回の研究では象牙芽細胞のイオン輸送や石灰化に作用することが確認されました。
Q3.今回の研究では、実際に象牙質が再生したのですか?
ラットの歯では、6-MSITCによって反応性象牙質形成、コラーゲン産生、カルシウム沈着が有意に増加しました。基礎研究だけでなく生体内でも象牙質形成促進が確認され、臨床応用を見据えた研究へ進んでいます。
Q4.6-MSITCは知覚過敏の新しい治療につながる可能性がありますか?
可能性が期待されています。知覚過敏では露出した象牙質が刺激を受けて痛みが生じるため、象牙質そのものの形成を促すアプローチは新しい治療戦略になり得ます。現在は臨床応用に向けた研究が進められています。
Q5.わさびを食べれば、知覚過敏や歯の再生に効果がありますか?
今回の研究は、食品としてわさびを食べる治療を検証したものではありません。 日本わさび由来の6-MSITCという特定成分を薬理学的に利用する研究です。食品の摂取と、成分を治療へ応用することは分けて考える必要があります。
FAQ|栄養コンシェルジュ®と栄養学の学び
Q6.栄養コンシェルジュ®では、食品に含まれる成分まで学ぶのですか?
栄養コンシェルジュ®では、食品名や栄養素を覚えるだけでなく、消化吸収、代謝、細胞、ホルモン、臓器機能など身体の仕組みと関連づけて栄養を理解することを大切にしています。食品が身体でどう利用されるかを考える力を養います。
Q7.栄養コンシェルジュ®は、一般的な栄養資格と何が違うのですか?
大きな特徴は、「何を食べるか」だけでなく「なぜその提案をするのか」まで身体の仕組みから学ぶことです。特定の食品や食事法を覚えるのではなく、対象者の目的や身体状況に応じて栄養を組み立てる実践力を重視しています。
Q8.食品カテゴリーマップ®は、栄養指導にどのように役立ちますか?
食品カテゴリーマップ®は、食品を主な栄養成分や役割から7カテゴリーに整理し、目的に応じた食品選択を分かりやすくする栄養コンシェルジュ®独自の実践ツールです。食品を「良い・悪い」で判断しない栄養指導につなげます。
Q9.管理栄養士やトレーナーなど、すでに専門職でも受講する意味はありますか?
あります。栄養コンシェルジュ®は、既存の専門知識を身体の仕組み、代謝、個別評価、説明力と結びつけ、現場で使える栄養提案へ変える学びとして活用できます。国家資格を置き換えるものではなく、それぞれの専門性を補完する位置づけです。
Q10.AIで栄養情報をすぐ調べられる時代に、栄養コンシェルジュ®を学ぶ価値はありますか?
AIで情報を得ることと、その情報を目の前の人へ適切に使えることは別です。 栄養コンシェルジュ®では、身体の仕組みを土台に、研究や健康情報を理解し、目的や状態に合わせて実践へ変える判断力を養います。

