栄養コンシェルジュ新着情報:【世界初】iPS細胞の心筋シート「リハート」が実用化|心不全治療から考える「身体を知る栄養学」
2026年9月30日
2026年9月29日、iPS細胞から作られた心筋細胞シート「リハート」を、重症心不全の患者さんへ移植する手術が大阪けいさつ病院で行われました。
2006年に山中伸弥教授らがマウスiPS細胞の作製を報告してから20年。
研究室で生まれた技術が、実際の医療として患者さんへ届く段階に入りました。
今回のニュースには、「iPS細胞」「心筋細胞」「血流」「酸素」「エネルギー代謝」など、実は栄養学を理解するうえでも重要な身体の仕組みが数多く登場します。
まずは、3つの質問から考えてみてください。
まずは3問チェック!あなたは説明できますか?
CHECK 1
iPS細胞から作った「心筋細胞シート」は、弱った心臓の代わりに直接ポンプとして動く?
CHECK 2
今回の「リハート」は、心不全であれば誰でも使用できる?
CHECK 3
私たちが食べた糖質・脂質・たんぱく質は、食べた瞬間から身体のエネルギーとして使える?
いかがでしょうか。
実は、3つとも単純に「YES」とはいえません。
このニュースを身体の仕組みから読み解いていくと、最先端の再生医療だけではなく、私たちが毎日行っている「食べる」という行為についても見え方が変わってきます。
なぜ、再生医療のニュースを栄養コンシェルジュ協会が取り上げるのか。
その理由も、最後にはきっと見えてくると思います。
「iPS細胞を心臓に貼る」治療ではありません
今回使用された「リハート」は、クオリプス株式会社が開発した再生医療等製品です。
正式な一般的名称は、「ヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シート」です。
「iPS細胞の心筋シート」と聞くと、iPS細胞そのものをシートにして心臓へ貼り付けるように感じるかもしれません。
実際には異なります。
ヒトiPS細胞を、心臓の筋肉を構成する心筋細胞へ分化誘導し、その心筋細胞をシート状に形成したものがリハートです。
厚生労働省の資料によると、心筋細胞シート1枚は、3.3×10⁷個=約3,300万個の心筋細胞から形成されています。
さらに、治療ではこのシートを3枚、心臓表面へ順次移植します。
「iPS細胞」という言葉だけを知るのと、iPS細胞から心筋細胞を作り、その細胞をシートにして心臓へ移植するという流れまで理解するのとでは、ニュースの見え方が大きく変わります。
心不全なら誰でも対象になる治療ではありません
もう一つ、大切なポイントがあります。
リハートは、すべての心不全患者さんを対象とするものではありません。
厚生労働省が示す効能、効果又は性能は、「薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全の治療」です。
では、「虚血性心筋症」とは何でしょうか。
心臓は、全身へ血液を送り出すポンプです。
そして、心臓を動かしている心筋そのものにも、働き続けるための酸素や栄養素が必要です。
その心筋へ血液を供給しているのが冠動脈です。
冠動脈の血流が低下したり、心筋梗塞などによって心筋が傷害されたりすると、心臓の収縮する力が低下する場合があります。
その結果、全身へ十分な血液を送り出すことが難しくなり、息切れや運動能力の低下などにつながることがあります。
今回のリハートは、こうした虚血性心筋症による重症心不全の中でも、標準治療で十分な効果が得られない患者さんが対象です。
「心不全の新しい治療」という一言だけでは見えてこない、大切な条件があります。
心筋細胞シートは、どのように心臓を助ける?
ここでもう一度、最初のチェック問題に戻ってみましょう。
心筋細胞シートを貼ると、新しい心筋細胞が弱った心臓の代わりに直接ポンプとして働くのでしょうか。
現在期待されている作用は、それほど単純ではありません。
iPS細胞由来心筋細胞シートから分泌されるサイトカインなどが周囲の組織へ作用することによって、心機能や心不全症状、運動耐容能などの改善につながることが期待されています。
これまでにも、動物モデルや臨床研究などを通じて検討が積み重ねられてきました。
一方で、「心筋シートを貼れば、傷んだ心臓が完全に元通りになる」と考えるのは適切ではありません。
再生医療という言葉から受けるイメージと、現在科学的に確認されていることを分けて理解する必要があります。
「承認された=すべて分かった」ではない
今回のニュースを正確に理解するために、もう一つ知っておきたいことがあります。
厚生労働省は2026年3月6日、リハートを再生医療等製品として承認しました。
ただし、これは7年間の「条件及び期限付き承認」です。
厚生労働省の資料では、条件及び期限付き承認後に改めて製造販売承認を申請するまでの期間、リハートを使用する全症例を対象とした製造販売後調査などによって評価を行うことが、主な承認条件として示されています。
つまり、承認されたから研究が終了したわけではありません。
患者さんへ実際の医療として届けられる段階に進んだ一方で、有効性や安全性については今後もデータを収集し、評価していく必要があります。
新しい医療について考えるとき、
「すごい研究が出た」
「承認された」
という情報だけを見るのではなく、どこまで分かっていて、何がまだ分かっていないのか。
ここまで確認することが、科学的な情報と向き合ううえでは大切です。
2006年から2026年へ。研究は一日にして医療にならない
今回のニュースには、もう一つ注目したい数字があります。
20年。
2006年、京都大学の山中伸弥教授らは、マウスの体細胞からiPS細胞を作製したことを世界で初めて報告しました。
2007年には、ヒトiPS細胞の作製成功を報告。
2012年には、山中伸弥教授がジョン・ガードン博士とともにノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
そして2026年3月、iPS細胞から作製した心筋細胞シート「リハート」が、日本で再生医療等製品として条件及び期限付き承認を受けました。
同年9月29日には、承認後第1例となる移植が行われています。
2006年の研究発表から約20年。
研究成果が発表されたからといって、翌日から患者さんに使えるわけではありません。
基礎研究を行う。
動物モデルなどで検討する。
安全性や有効性を調べる。
臨床研究や治験を行う。
製品として安定して製造する方法を確立する。
行政による審査を受ける。
その一つひとつを積み重ねた先に、実際の医療があります。
研究・開発に携わってこられた皆様、医療従事者、そして臨床研究や治験に協力された患者さんたち。
多くの方々の積み重ねによって、今回の一歩があります。
ここで「栄養」の話です。なぜ、このニュースを取り上げたのか?
ここまで読んで、「iPS細胞と栄養に、何の関係があるのだろう?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、食事によってiPS細胞由来心筋細胞シートと同じ治療ができるという話ではありません。
再生医療と栄養管理は、それぞれ役割が異なります。
それでも、日本栄養コンシェルジュ協会がこのニュースに注目する理由があります。
今回の記事に登場した言葉を並べてみましょう。
心臓、心筋、血管、血流、酸素、細胞、エネルギー代謝。
これらは、すべて栄養学と無関係ではありません。
私たちが食事から摂取した糖質、脂質、たんぱく質なども、食べる → 消化する → 吸収する → 運ぶ → 細胞へ取り込む → 代謝するという過程を経て、身体の中で利用されます。
「何を食べるか」だけでは、栄養学は完結しないのです。
食品を見る前に、「身体」を見ていますか?
例えば、「糖質はエネルギーになります」という説明があります。
間違いではありません。
しかし、そこで学びを止めてしまうと、「では、食べた糖質はどうやってエネルギーになるの?」という問いには答えられません。
糖質は消化され、単糖類として吸収されます。
吸収されたグルコースなどは血液によって運ばれ、細胞へ取り込まれます。
そして細胞内で代謝され、ATPの産生へつながります。
ここまで理解すると、「糖質=エネルギー」という暗記だった知識が、「身体の中で何が起きているのか」という理解へ変わります。
脂質も同じです。
たんぱく質も同じです。
ビタミンやミネラルも、それぞれ身体の中で役割を持っています。
だからこそ、栄養を学ぶときに「食品に何が入っているのか」だけを見るのではなく、
その栄養素を、身体がどう使っているのか。
ここまで考えることが大切です。
SNSで「○○に良い食品」を見つけたら?
「心臓に良い食品」
「血管に良い食べ物」
「○○を食べれば健康になる」
SNSやインターネットには、このような栄養情報があふれています。
では、新しい栄養情報を見つけるたびに、その食品名を覚え続ければよいのでしょうか。
私たちは、そうは考えていません。
まず身体の仕組みを知る。
その食品にはどのような特徴があるのかを知る。
そして、「誰が、何のために、どのように選ぶのか」を考える。
身体の状態も、生活も、目的も、人によって違います。
だからこそ、食べ物に善悪はない。
大切なのは、身体と目的に合わせて選択することです。
「栄養を知っている」と「栄養を使える」は違う
栄養学を学んでいると、覚えることがたくさんあります。
栄養素。
食品。
消化酵素。
ホルモン。
代謝経路。
しかし、本当に大切なのは、覚えた知識を使えることです。
例えば新しい研究や健康情報に出会ったとき、「なぜ?」と考えられるか。
身体のどこで起きているのかを考えられるか。
食品と身体の仕組みを結びつけられるか。
そして、目の前の人の目的に合わせて食品を選択できるか。
知識を「点」で覚えるのではなく、「線」でつなげる。
これが、日本栄養コンシェルジュ協会が大切にしている栄養教育です。
栄養を“暗記”ではなく“選択”へ|栄養コンシェルジュ®養成講座
一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会では、身体と食品の関係を体系的に学ぶ「栄養コンシェルジュ®養成講座」を開講しています。
栄養コンシェルジュ®1ッ星コースでは、栄養素の働き、消化・吸収、エネルギー代謝など、栄養を理解するための身体の仕組みを基礎から学びます。
さらに、日本栄養コンシェルジュ協会が開発・普及する**食品カテゴリーマップ®**を活用し、食品を栄養学的な特徴から整理します。
「この食品は良い」
「この食品は悪い」
と決めるのではなく、目的に合わせて、食品を選択する。
2ッ星コースでは、さらに細胞内代謝、肝臓や骨格筋などの働き、血液検査データの読み解き、個人に合わせた栄養プランニングへと学びを深めます。
管理栄養士・栄養士として専門性をさらに広げたい方。
パーソナルトレーナーやスポーツ指導者として、身体と栄養をつなげたい方。
美容・ヘルスケアの現場で栄養を活用したい方。
そして、自分や家族の健康のために、栄養学を基礎から学びたい方。
「何を食べればいいですか?」という問いに、食品名だけで答えるのではなく、「なぜ、その食品を選ぶのか」を身体の仕組みから説明できるようになる。
それが、栄養コンシェルジュ®で目指す学びの一つです。
最後に、もう一度3問チェック
記事の最初にお聞きした3つの質問。
今なら、どう答えますか?
Q.心筋細胞シートは、弱った心臓の代わりに直接ポンプとして働く?
→ 単純にそのような仕組みではありません。心筋細胞から分泌されるサイトカインなどによる作用を含め、心機能等の改善が期待されています。
Q.リハートは、心不全なら誰でも使用できる?
→ いいえ。標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全が承認上の対象です。
Q.食べた栄養素は、その瞬間から身体のエネルギーとして使える?
→ いいえ。消化・吸収、運搬、細胞への取り込み、代謝などの過程を経て利用されます。
最初より少し身体の見え方が変わっていたら、それが「学ぶ」ということだと思います。
医学も、生命科学も、栄養学も進歩を続けています。
新しい情報が出るたびに答えだけを覚えるのではなく、身体の仕組みから考えられる人へ。
栄養を“暗記”ではなく“選択”へ。
食べ物に善悪をつけるのではなく、身体と目的に合わせて食品を選べる知識を。
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よくある質問|iPS細胞・心筋シート「リハート」
Q1.「リハート」はiPS細胞をそのまま心臓へ移植する治療ですか?
いいえ。ヒトiPS細胞を心筋細胞へ分化させ、約3,300万個の心筋細胞を1枚のシートに形成した再生医療等製品です。治療では3枚の心筋細胞シートを心臓表面へ順次移植します。
Q2.iPS細胞の心筋シート「リハート」は誰が開発しましたか?
リハートは、大阪大学発のクオリプス株式会社が開発したヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートです。2026年3月6日に再生医療等製品として条件及び期限付きで承認されました。
Q3.リハートは、どのような人が治療対象になりますか?
薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で十分な効果が得られない、虚血性心筋症による重症心不全が承認上の対象です。心不全患者すべてを対象とする製品ではありません。
Q4.iPS細胞由来心筋細胞シートには、どのような効果が期待されていますか?
心筋細胞から分泌されるサイトカインなどが周囲の組織へ作用することで、心機能、心不全症状、運動耐容能などの改善につながることが期待されています。今後も臨床で評価が続けられます。
Q5.リハートの安全性や有効性は、すでに完全に確認されていますか?
リハートは7年間の条件及び期限付き承認です。実際の医療で使用できる段階に進んでいますが、製造販売後も使用症例から情報を収集し、有効性や安全性を継続して評価することが求められています。
よくある質問|栄養コンシェルジュ®養成講座
Q6.栄養コンシェルジュ®では、なぜ身体の仕組みまで学ぶのですか?
食品の知識だけでは、摂取した栄養素が身体でどう利用されるのかを十分に説明できないためです。消化・吸収、運搬、代謝などを理解し、身体の状態や目的に応じた食品選択につなげます。
Q7.栄養コンシェルジュ®と一般的な栄養の勉強には、どのような違いがありますか?
栄養素や食品を覚えるだけでなく、「身体で何が起きているか」と食品を結びつけて考えることを重視します。食品カテゴリーマップ®を活用し、目的に合わせて食品を選択する力を養います。
Q8.食品カテゴリーマップ®では何を学べますか?
食品を栄養学的な特徴から7つのカテゴリーに整理する、日本栄養コンシェルジュ協会独自のツールです。食品に善悪をつけるのではなく、身体の状態や目的に合わせた食品選択に活用します。
Q9.管理栄養士・栄養士が栄養コンシェルジュ®を学ぶ理由は何ですか?
国家資格として培った専門知識に加え、食品カテゴリーマップ®や栄養コンサルティングの考え方を学べます。栄養指導、教育、スポーツ、美容など、自身の専門領域での活用を目指せます。
Q10.栄養コンシェルジュ®は他の栄養資格や管理栄養士資格の代わりになりますか?
いいえ。栄養コンシェルジュ®は一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会が認定する民間資格です。管理栄養士・栄養士など法令に基づく資格の代替ではなく、身体と食品を結びつけて学ぶ独自の栄養教育です。
参考文献・参考資料
厚生労働省. 承認された再生医療等製品について. 令和8年3月6日.
厚生労働省. 第24回医薬品等行政評価・監視委員会 資料3「再生医療等製品『リハート』について」. 2026年6月16日.
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). リハート 審査報告書. 2026年2月10日.
クオリプス株式会社. 再生医療等製品「リハート」第1例目の移植実施に関して. 2026年9月29日.
京都大学iPS細胞研究所(CiRA). iPS細胞とは? よくある質問.
K Takahashi, S Yamanaka. Cell. 2006 Aug 25;126(4):663-76. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors.
K Takahashi et al. Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-72. Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors.
M Kawamura et al. Circulation. 2012 Sep 11;126(11 Suppl 1). Feasibility, safety, and therapeutic efficacy of human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocyte sheets in a porcine ischemic cardiomyopathy model.
N Kashiyama et al. Transplantation. 2019 Aug;103(8):1582-1590. MHC-mismatched allotransplantation of induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocyte sheets to improve cardiac function in a primate ischemic cardiomyopathy model.
S Miyagawa et al. Front Cardiovasc Med. 2022 Aug 26;9:950829. Case report: Transplantation of human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocyte patches for ischemic cardiomyopathy.
※本記事は2026年9月30日時点で公開されている厚生労働省、PMDA、京都大学iPS細胞研究所、クオリプス株式会社の公表情報および査読済み論文をもとに作成しています。リハートは条件及び期限付きで承認された再生医療等製品であり、今後の製造販売後調査や研究により有効性・安全性に関する情報が更新される可能性があります。
一般社団法人 日本栄養コンシェルジュ協会
「栄養で人と未来を輝かせる」を理念に、科学的・医学的根拠に基づいた栄養知識の普及と、現場で活用できる実践的スキルを持つ人材の育成に取り組むヘルスケア教育機関です。 また、医療・運動・心理・生活科学など多分野の知見を統合し、本質的な健康支援を実現するための「栄養哲学」の研究にも取り組んでいます。 認定資格「栄養コンシェルジュ®」は、医療従事者やアスリートなど多分野の専門家が監修した信頼性の高い栄養学資格で、基礎から応用まで体系的に学べるカリキュラムを提供しています。 さらに資格取得後も、最新の研究情報の共有や学習機会の提供を通じて継続的な学びを支援し、資格取得者の生涯学習と専門性向上をサポートしています。



